「ほら、早く隠れてよ。」 少し不満そうな声で、俺を急かしていたのは、逆光を浴びた平助。 かくれんぼで鬼をやるのは、不安だから嫌いだという。 顔は、見えない。 俺はその声にしぶしぶながらも頷いて、急いで隠れる場所を探した。 平助がいたところが辛うじて見えるくらいの、離れた茂みの中に身を潜めて、息を殺す。 遠くで十数え終わった平助が、俺の名前を読んでいる。 「もーういーいかーい、ぱっつぁーん、出ておいでー。新八っつぁーん、」 呼ばれて出て行ったら意味ないじゃないか、と呆れながら、抱えた膝に顔を埋めると、視界は真っ暗。 もういいかい、と、出ておいで、を繰り返す平助の声が、だんだん遠くに行ってしまう。 怖い 柄にもなく、暗闇が怖い。 少しだけ、だけど。 まったく、 なんで俺がこんな事してなきゃいけないんだ。 早く、早く ガサ、と葉と葉が擦れる音がして、ふと顔をあげる。 「見つけた、」 嬉しそうな声、 後ろから光が射して、平助の顔はやっぱり逆光で見えない。 どこか予想していたようで、めいっぱいに期待していた。 「ぱっつぁん?」 「・・・・・平助、」 「どうしたの、顔色悪いよ?」 「・・・・別に、何にもねぇよ」 「そう?・・・・無理しないでね?」 「・・・・・・・・、」 日の光が燦々と。 眩しくて目が眩みそう。 でも違う。俺が欲しいのはこれじゃない。 俺が期待していたものは、これじゃないんだ。 「じゃ、今度は新八っつぁんが鬼ね」 そう言った平助は、多分笑顔だったんだろう。 見えなかった、けど。 くるりと後ろを振り向いて駆けていった。 数え終わる。振り向く。 平助が居た。 「・・・何してんの、お前」 「一生懸命隠れてるぱっつぁん見てたら、隠れるのが勿体無くなっちゃって。」 「・・・・・馬鹿か。」 「うん、馬鹿だよ。新八っつぁん馬鹿だもん、俺」 ちがうって言ってんだろ、馬鹿。 それじゃない。ほしくない。 あれ、 また、逆光の所為かな 見えない、平助の顔。 邪魔なのは太陽か、それとも。 そこまで考えて、目が覚めた。 「へーすけ・・・?」 どこかぼんやりとしたまま、数を数える。 ひとつ、ふたつ、みっつ 十まで数えて、目を開ける。 わかってる。 「もう、いいよ・・・」 振り向いたら笑ってないかな、なんて 期待できるほど、子供じゃないけど。 「・・・鬼なら、ずっとやっててやるから、さぁ」 向こうからひょっこり出てくるんじゃないかな、なんて でもまだ、あの眩しい光が、脳裏をちらついて 平助の笑顔の、邪魔をするから ひとつ、数えて目を閉じて ふたつ、数えて耳を塞ぐ みっつ、数えて 「・・・・・・・平、助」 ほら、もう何も無い。 全くの、 期待通りだ。 --------- 06 7/22up |