空はよく晴れている。


太陽は輝いているし、


鳥はいつものように囀りながら羽ばたいていて、







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「――――――なけない、んだ」







いつも強い、強がりのこの人が、弱々しく言った。


もともと細くて小さな体は、更に痛々しく痩せ細って


もういない、自分と同年の彼を、少し、いや、かなり疎ましく思う。








下に濃い隈ができた大きな眸は、何処を見ているのか虚ろに開かれていて

隣に私がいるってことを、認識しているのだろうか。






遠くで隊士が気合を発して稽古しているのが見える。

この人の親友も、元気そうに槍を振り回して。







「なけない、」


もう一度、ぽつりと言った。





「――――・・・ながくら、さん」



だったら、その頬に流れているものは何だというのだろうか。


ぽたぽたと土に染み込んでいく水滴を、この人は何と認識しているのだろう。






このよく晴れた空も輝く太陽も囀る小鳥も


この人の中には、存在していないのだろうか。




強くなろうと頑張っている隊士も、

豪気で優しい親友も、

たぶん、私のことだって








「大丈夫です、よ」


何が大丈夫なのか

自分でもよく分からなかったけれど、言わずにはいられなかった。




やっぱり、この人はどうとも反応してくれなかったし、


私の方を、向いてくれなかったけど。






ここで、彼の名前を出したら、言葉を返してくれるだろうか。


たった一言、彼の名前を出したら、この人はどうなるんだろう。








「・・・・・ずるい、ですかねぇ」









そうだ、とてもずるい、考えだ。






でも彼はもっとずるかった。





勝手にいなくなってしまって、会えなくなってしまって


この人の心に居座る術を、ちゃんと知っていたから。











あぁ実に忌々しい。




どうして彼だったんだろう

私のほうが先に出会っていたのに。






どうして彼だったんだろう

私のほうが何倍も優しくしてあげるのに。














どうして彼だったんだろう。


死ななければいけなかったのが、彼だったんだろう。


・・・まぁ我が身の現状を思えば、私もそのうち、少なくともこの人よりは先に、藤堂さんと会うことになりそうだれど。















「――――――好きです、永倉さん」


一世一代の告白。






こんな形で、するとは思わなかった。









「すき、なんです」



「うん、」







あぁ、




どうして、

彼だったんだろう。











彼がいっつもしてたみたいに、頭と背中に手をまわして、抱きしめる。


別に反応してくれる事を望んでいたんじゃない。











だって私は、








「なけない、よ」





それでも彼が、涙を流し続けるだけだってことと










「・・・・・泣かなくても、いいですよ」




私がとても、ずるい人間だって事と












「へい、すけ・・・」


あの人がとても酷い人だったって事を、認識してしまっているから。











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