「いっしょに、死ねたらいいのに」



ふ、とため息

夜の闇に、消えた。




「どうして死にたいの」


問いかけ




ずるい

わかってる、くせに






「・・・ずっといっしょに、いたい、から」



呟き、微笑み

少しだけ、眉を下げてみて




泣きそうな顔、してみる。








あぁ、



ずるいのは、こっちだ。






わざわざ、この人の苦手な顔をしてみて




この人が、俺の、泣きそうな顔に弱いのを

知っていて







「・・・・・・、」







ほら



「へいすけ、」






ほら、やっぱり



「そうだね」





この人は、子供に駄々を捏ねられた、母親のような、

とても、困ったような顔をして


俺の嘘みたいなのより、よっぽど綺麗な表情で





小さな手をめいっぱいに広げて、俺を抱きしめるんだ。












「・・・・ぱっつぁん・・?」

「一緒に、死ねたらいいよね」

「・・・・・・うん」







じゃぁ死のうよ、と言いたくて


でも、言えなくて



そうだね、と

いっしょだったら、いいね、と


でも、生きてね、と





全部、いっしょくたにした、思いで




小さくてほっそい、あったかい背中に手を回して


何度も何度もうん、って頷いた。










ホントは、いや、それもあるけど


ずっと一緒にいたいからってのだけが、理由じゃないんだ。




あんたと一緒なら怖くないんだ。



死んじゃっても、この世に始めから存在してないことになっても


こわくないって、思うんだ。









そう言ったら、俺もだよって、頭をなでてくれるかな。




・・・・こわくて、言えないけど。







夏だから、密着したままじゃ暑くて暑くてたまらなくて、

俺は、汗か涙かもよくわからなくなるくらい、水分を出した。










でも離れないで、ようやく少し冷えた風が一筋吹いたとき、






「ふたりで、いっしょだったら、いいね」



「・・・・、うん」









俺をその細い腕で抱いたまま、もう一度、ひとり言のように

小さく呟いたときの彼は



どんな顔、していたのだろう。













わからなかった ただその事だけが



最後まで、うん、としか言えなかった俺の



唯一の、心残りだったような






「いっしょだったら、」


「・・・うん」


「・・・・こわくないのに、」


「・・・・・・」









そんな、夏の日の、おわり























------

06 8/2 up