まっすぐな背中とまっすぐ前を見ている顔と強い強い心が好きだったよ。



















泣くかと思ったんだ。


新八っつぁんは不意打ちに弱いから、最愛の俺から突然告げられる別れに耐えられなくて、泣くかもしれないと思ったんだ。







「・・・・・俺、ここ抜けるわ。」

「・・・・・・・・・・っそ、わかった」

「、・・・・・」

「何だよ、」


「・・・好きだよ」





泣くかな、泣くかな


泣くの、かな







「俺も、だよ」



泣かなかった。








やだな、


俺の方が泣きそうになっちゃったじゃない。





「・・・・・ごめんね」


耐え切れなくなって、やっと口に出せたのは謝罪の言葉だった。





「謝んなよ、ばーか」

「・・・うん、ごめん」

「謝んなって」



俯いた俺の頭を小突いてくるその手がとても温かだったから


思わずホントに涙が浮かんできて、俺はそれを拭うのに必死だった。







あぁ、覚悟を決めたはずなのに、情けないったらありゃしない。


誰だよ、さっきまで新八っつぁんが泣くんじゃないかって心配してたやつ。


・・・・・俺だっけ。








情けない俺からぽろぽろ流れる涙は止まることを知らないんじゃないかってくらいに流れ続けて、



涙に性格ってもんがあるなら、きっと俺みたいに未練がましくてしつこくて、情けないんだろうなぁって思った。







「あぁもう、なくなよ」


困ったような嬉しいような、そんな顔で俺の情けない涙を見て笑う新八っつぁん。




・・・ちがうよダメだよそんな顔、しないで。








もう止まることを知らないくらいに流れる涙を拭うことを諦めた俺は、どこかでこの人が拭ってくれるんじゃないかって思ってて




でも世の中もこの人も、情けなくてダメな俺にそんなに甘くなくって、

でもきっとこの人は世の中よりは俺に甘いから、さっきと同じ、あったかい手で頭をなでてくれた。












日が傾いてきた頃くらいにやっと少しだけ、涙が止まって



少し俯きながらの帰り道。







あと10歩も歩けば屯所につくといったところで、新八っつぁんが立ち止まった。






「・・・・・・・お前がこっから出てくのは、お前の意思なんだろ?」



ちっちゃい背中をこっちに向けたまま、背筋をピンって伸ばしてまっすぐ前を見てる。





俺の大好きな新八っつぁんの姿勢だ。











「だったら、俺は泣かないよ。」


「お前が思ってたみたいに、泣いたりしないよ。」


「ていうか、お前が泣いてくれるから、泣かなくていいんだ。」



「だから、」







続くかなと思った言葉はそこで途切れた。



その代わり少しだけ、まっすぐだった背中が曲がって、まっすぐ向いていた顔が下を向いた。







あぁきっとこの人は泣かないんだろう。このままずっと俺が死んでも何があっても、俺のことで涙を流したりしないのだろう。






だけどその代わり何かあるたび少しだけ背中が曲がって少しだけ顔が下を向いて少しだけ心を弱くしていくんだろう。



俺の大好きな新八っつぁんは、どんどん、消えていくんだろう。











そう思ったときに目からでてきたのは、やっぱり涙で、




それを拭ってくれない、世の中よりは俺に甘くて絶対泣かないだろうこの人の涙は、どうやったら拭ってやれるのだろうと考えた。











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