「これはね、食べたら俺のコト、忘れちゃう飴なんだ。」

     「・・・・へぇ。」
 
 
 





    少し大きめの、
        ヒトの血の様な真紅の、
 
             飴玉を左手の親指と人差し指に摘まんで、ぱっつぁんの目の前に差し出す。
 
 
 
 
















     ( 嘘だよ、ぱっつぁん。
       そんな飴玉なんて無いから。
       そんな飴玉なんてあげ無いから。
       『忘れられる』なんて、そんな怖い勇気なんて自分に無いから。)
 
 
 
 











]     「それでさ (でも仮に本当なら)、
 
          ぱっつぁん は さ 、この飴、食べ る?」
 
 
 















       あぁ、少し声が震えた。  情け、ない。
 

       なんて答えるのだろう、少し期待し、少し焦り、答えを待つ。
 
 
 
 















         あはは、やっぱりぱっつぁんは意地悪だ。
 
 
           答えなんか声に出さず、

              立っている俺の顔を見るように顔を上げ、

                    目を閉じ、 唇から舌を覗かせるだけ。
 
 
 
 
 
 














   もし『コレ』を彼の舌に乗せたら、本当に彼は自分を忘れてしまうのか。

                   彼は自分の事を無かったコトにするのか。
 
 

                   忘れた振りをして、しまうのか、くれるのか。
 
 
 
 
 
 
 























          「ごめん、ね、」 そう小さく小さく胸の奥で呟いて、
 

              情けなく微震する指で、小さく熱いその舌に、
 
 
 
 

                          焦る俺の指の熱でほんの少しだけ溶けた飴玉をのせた。
 
 
 
 
 














 











     俺の腕を掴もうとしていたのだろうか、剣士の癖に小さい彼の手は、
 
 



                       何も掴むことなく、 ただ 空 を 凪 いだ だけ だっ た 。
 
 
 
 








   (指に付いた飴玉の名残でも舐めたら、彼を忘れる事が出来たのだろうか。否、そんな怖い勇気なんて自分には無い。)








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06 11/18up